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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)265号 決定 1961年12月19日

抗告人 榊夫吉郎

相手方 株式会社熊本相互銀行

主文

原決定を取り消す

本件を熊本地方裁判所に差し戻す

理由

本件抗告は、相手方の競売申立により、原裁判所は昭和三六年一一月九日原競落許可決定の不動産に対し競売を実施し、同月一四日競落許可決定を言い渡したところ、右競売にあたり、原裁判所は、熊本市役所に嘱託してその掲示板に公告をなしたが、同公告は掲示板の網戸の中に公告文書が貼付されたゞけで、その掲示板は公告文書の内容を披見することができないように設備されている。これは民事訴訟法第六七二条第五号の要件をかいたもので、売却条件に違反したものであるから、「原決定を取り消す。本件競落は許さない。」旨の裁判を求めるというのである。

公告とは公告事項を広く一般の人に知らせることをいう。しかし、公告の目的、方法、効力等は必ずしも一律同旨ではなく、公告について規定する各種法律の法意に照らして、これを考えなければならない。競売法第二九条により準用される民事訴訟法第六六一条第一項が、同法第六五八条所定の事項を記載した競売期日の公告を競売裁判所の掲示板に掲示するの外、競売不動産所在地の市町村の掲示板に掲示すべきことを規定する所以は、競売の日時、場所、競売不動産等を一般不特定多数人に了知させて、なるべく多数の競買希望者が競売に参加することを目的とするので、掲示板に掲示する方法もこの目的に副い、公告を見て容易に知ることができるよう掲示されなければならない。

ところで記録によれば本件競売期日の公告は、熊本市役所の施錠された網戸附の提示板に、他の公告文書と共に一括纒めて片隅を貼付し吊るしてあるので、掲示板の本件公告を見てもその記載を知ることができない仕組であつてこれを知ろうと希望する者は、その都度市役所係員に申し出て、係員から網戸を開けてもらい、漸くこれを披見しうるという方法で掲示してあることが認められるので、右のような掲示は前説示に照らし、民事訴訟法第六六一条の公告の掲示としては不適法と解するの外はない。したがつて、原審の手続は同条第一項第二号の公告をしないで競売を実施し、もつて競落を許したことに帰着するので、右は民事訴訟法第六七二条第一号に当り、抗告人は同法第六八〇条第六八一条により競落の不許を求めて、抗告をなしうるものというべきであるから、抗告を理由ありと認め主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

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